FMの受信感度測定
業務無線もデジタル化が進み、現在FMで
メンテナンスしているのは、消防の全国共通波と
電力会社の無線テレメータだけになってしまいました。
年に数えるほどしかしか使わなくなったFM用の測定器は、
アマチュア無線のショップに預かっていただき、アマチュア
無線機の測定に使用して定期的にエージングを実施して
頂いております。
受信感度の良し悪しを簡易的に見るなら、標準変調を掛けた
-10dBμVくらいのSG出力を突っ込んで受信音を聞けば分かります。
しかしショップに来るかなりのベテランハムの方でも、正規に
受信感度を測定する方法を知る人が、そう多くないことが
分かりましたのでそのへんをちょいと書いてみましょ。
今さらアナログ? まぁ、そう言わずに・・・
実は測定基準も無線機メーカ・測定器メーカー・測定発注先の
指示などが異なっている場合があり、またweb上で調べても
微妙に違っていたりします。
ここに書くのは拙生が関わっているすべての公的機関で
指定されてくる測定基準によるものです。
FM機の受信感度
受信感度の測定方法は【20dBNQS】と【12dBSINAD】
の2つがあります。(20dBSINADもあるが一般的でない)
大雑把に説明すると
【20dBNQS】
無信号時に出力される雑音を20dB抑圧するための受信入力電圧値
(受信入力信号は無変調キャリア)
FMは信号と雑音の出力の総和が一定であり、無信号の時は
スピーカから雑音が大きく出力されます(なのでスケルチが必要)が、
信号が入ると雑音が抑圧され、この場合無変調キャリアなので
40dBも抑圧されれば無音状態になります。
20dBの抑圧ならほぼ無音か若干雑音が残る程度になります。
スケルチを外して雑音を出し、そのレベルが-1dBmだったら
無変調キャリアを入れてやり-21dBmになる受信入力電圧が
20dBNQSの値となります。
20dB抑圧に必要な受信入力電圧が低いほど感度が良いということです。
(測定周波数で無変調キャリアが出るSGとレベル計による測定)
ちなみにFMでの同一周波数による混信は、受信入力電圧が
一方が他方より6dB以上高かったら他方をぶっ潰します。
(航空無線ではレベル差のある信号でも混信しているとわかるのでAMを使う。)
追記 2020年10月
なぜか検索結果の上位になっていて、時々質問がきたりします。
検証なしの思いつき投稿なので、多少の追記をさせてもらいます。
【12dBSINAD】
SINAD=(S+N+D)/(N+D)が12dBになる時の受信入力電圧値
* S(シグナル) N(ノイズ) D(歪)
SGは標準変調
(測定周波数で標準変調がかかるSGと歪計による測定)
以下は標準変調についてです。(指定されている測定基準)
1KHzで最大周波数偏移の70%
つまり最大周波数偏移が±5KHzの場合は±3.5KHz、
±2.5KHの場合は±1.75KHzとなります。
ただしトーンを重畳している場合はトーン分のデビエーションを
差っ引きます。
±5KHzの場合は±0.5KHz、±2.5KHの場合は±0.35KHzが
一般的であり、この場合±5KHz→±3KHz・±2.5KH→1.4KHz
を標準変調とします。
追記1 工場の出荷時規格であり、無線設備規則の60%
とは異なります。
ちなみに、標準変調となるマイクやMODラインからの入力レベルが
その入力端における標準変調入力レベル(dBm)となります。
業務用無線のマイク入力は、カーボンマイクを使用していたころの
レベルが踏襲され、40Ωで標準変調入力レベルが-4dBmってのが
圧倒的に多いですね。
600ΩMODラインは-8dBmあたりが一般的でしょうか。
( DEMライン(復調出力)は0dBmが一般的 )
多重回線の搬端(4WSR)などでゼロッパチと呼ばれるやつです。
一般的と限定を避けているのは、例えばDuplex(複信)の場合
回りこみを抑えるためにレベルを下げる場合があります。
また回線レベルの安定のためにゼロッパチをそれぞれ3dBほど
下げる回線レベルダイヤグラムとする手法もあるためです。
(0/-8 → -3/-11 単位dBm)
またマイク入力と同じ-4dBmとする場合もあります。
おっとかなり脱線しちゃいました。。。
12dBSINAD測定法はいろいろあるようですが基本的には
標準変調を掛けたSGの出力を受信機に入れて
SG出力を可変し受信出力の歪が12dBとなった時の値
追記2 この値は歪が支配的ですが、式の通り
正確には歪率雑音です。
ということになります。
手動の測定では闇雲に可変せずに、業務系無線は0dBμV、
アマチュア無線機は-10dBμVあたりから探ってください。
ちなみに拙生の測定器モードを自動にした時の振舞は、
最初に標準変調0dBμVのSG出力で歪計を校正してから
12dBを探しに行ってます。
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2つの違いはノイズ抑圧で判断するか歪で判断するかです。
実際に則した方法は変調を掛けて行う12dBSINADでしょう。
ノイズの抑圧に優れていても信号が歪んでいちゃねぇ。。。
ってことです。
事実、局発周波数のズレを補正するときなど、20dBNQSで
最良値に調整するとディストーションが悪化する場合があり、
SINADを睨んだ調整が必要です。
ただし混変調や相互変調による抑圧などを測定するときは
20dBNQSで測れというご指示をいただくときもあります。
伝統的に最大周波数偏移±5KHzの無線機は20dBNQSで
±2.5KHzは12dBSINADで測定しています。
余談
その昔はSG・レベル計・歪計など、多くの測定器を担ぎこみ
測定しなくてはなりませんでしたが、ショップにお預けしている
やつは、1台にすべてがつめ込まれていて、測定項目によって
ワンタッチで構成を切り替えて測定しちゃいます。
更に同じ測定を何台も行うときなどは、設定で測定項目を
列挙しておけばすべてを自動測定を行い、その結果を
プリントアウトしてくれるなどイタツク(いたれりつくせりの
略称らしい。。。笑)なのであります。
これだと誰でも測定ができて便利なようですが、思ったような
測定値が出てこなかったり、測定不能などのイレギュラーな事態が
発生した場合、不具合を切り分けるにはやはりどのような構成で
測定しているのかを知っている必要があり、自動でしか
やったことのない測定員は頭を抱え込んでしまうということに
なりかねません。(多いんです、そういうお方・・・)
最近はアナログ測定器がどんどん放出されているので、
オークションなどで入手してみてはいかがでしょうか。
ちなみに航空無線のメンテナンスもやっているので
AMも一通りは分かります。(笑
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