6mで1KW@俯角減衰量
電波防護指針における俯角減衰量の話です。
計算は最悪の条件で。
計算はお馴染みの九州総務局からダウンロードしたやつ。
ダイポールjの計算
1 基本算出式による場合
項目 諸元等 単位
周波数 54.0000 MHz
送信機出力 1000.00 W
給電線等損失 0.0 dB
空中線入力電力 1000.0000 W
空中線利得 0.0 dB
空中線電力電力比率 1.0000 倍
算出地点までの距離 10 m
反射係数 4.00
電界強度基準値(~30MHz) V/m
電力束密度基準値(30MHz~300GHz) 0.2000 mW/c㎡
電界強度算出値(3MHz~30MHz,反射考慮) V/m
電力束密度算出値(30MHz以上,反射考慮) 0.4974 mW/c㎡
電界強度算出値(30MHz未満,反射無視) V/m
電力束密度算出値(30MHz以上,反射無視) 0.1243 mW/c㎡
基準値=算出値となる距離(反射考慮) 12.6157 m
基準値=算出値となる距離(反射無視) 6.3078 m
判定(反射考慮) ×
判定(反射無視) ○
周波数は一番厳しい上限を採用。
給電線等損失はないものと仮定。
これでは反射考慮で12.6157mの距離が必要となり、
設定した10mでは判定は×となります。
では八木アンテナを使ったらどうなるのか。
単純にカタログの利得を(dBiの場合は-2.15dBとして
ダイポール比に換算)入れて計算していませんか?
某メーカーの6eleのカタログ値は13.5dBi。
ダイポール比は-2.15で11.35dBdです。
これをそのまま挿入して計算すると、46.6026m以上
でないと○の判定は出ません。
仕方がないので、1KW検査時にはダイポールやHB9CVを
上げて通したという話も聞きます。
1KWが必要な理由書にDX通信のためと書くのに、ダイポールは
ないですよね。
受信を考えると50w+13dBd以上のアンテナのほうが断然FBなのは
間違いありません。
大きな間違いがあります。
間違いその1
まず空中線利得ですが、リアルグランドではなく
自由空間でみなくてはダメです。
空中に展開された水平ダイポールアンテナの垂直面指向性は、
自由空間と同様に360°放射されるとします。
リアルグラウンドにおける空中線利得は、直接波と
地面からの反射波か干渉して打ち上げ角が生じ、
その結果垂直面での指向性ができるためトータルでの
利得が上がります。
反射を無視した算出距離は、反射を考慮したものの
半分であることからわかります。
逆にいうと理想的に反射すれば、反射により生じた
打ち上げ角による利得は、最大6dB(2倍)アップするとい
考え方に基づいているのです。
リアルグランドでの利得を採用すると、反射を二重に
考慮してしまうことになります。
間違いその2
アンテナ直下を考えます。
自由空間における水平ダイポールの垂直面指向性は
360°、いわゆる無指向性となります。
ですから仰角(=俯角)が0°であろうが、直下の
90°であろうが、利得は0dB(d)で上記の計算となります。
ではビームアンテナになるとどぉでしょう。
仰角0°が最大となり、90°へ大きなサイドローブが出てさえ
いなければ、だいたいは最小値となるのです。
!! ですからビームのほうが、
しかも高利得のほうが断然有利なのです !!
例えば現在タワーに上げるためスタンバイしている11eleQuadで
計算してみます。
俯角における計算結果と合否 (54MHz)
俯角 空中線利得 算出点距離 必要距離 合否
(°) dBi dBd m m
90 -17.4 6 -19.61 18.00 0.98 ○
80 -4.83 -6.98 18.28 4.19 ○
70 -6.65 -8.80 19.16 3.40 ○
64 -6.45 -8.60 11.13 3.47 ○
60 -3.96 -6.11 20.78 4.81 ○
50 0.03 -2.12 23.50 9.38 ○
40 -1.06 -3.21 28.00 8.28 ○
30 5.27 3.12 36.00 13.39 ○
20 10.7 8.55 52.63 25.03 ○
10 13.12 10.97 103.66 33.07 ○
9 13.26 11.11 115.06 33.61 ○
8 13.38 11.23 129.34 34.07 ○
7 13.49 11.34 147.70 34.51 ○
6 13.58 11.43 172.20 34.87 ○
5 13.65 11.50 206.53 35.15 ○
4 13.71 11.56 258.04 35.39 ○
3 13.76 11.61 343.93 35.39 ○
2 13.8 11.65 515.77 35.97 ○
1 13.82 11.67 1031.3 35.97 ○
0 13.82 11.67 ∞ 35.97 ○
ポイント
■ 直下(俯角90°)では ダイポールは0dB(d)だが
このアンテナは-19.61dB(d)で1m離れればOKである。
■ 64°を特別に計算しているのは、最短距離の俯角だから。
こうやって見ると、低いタワーでも問題ないのがわかります。
ただ注意しなくてはいけないのは、近隣にアンテナの高さと
ほぼ一緒かそれ以上の建物がある場合は、36m以上離れないといけません。
俯角計算を行う
アンテナ設計の神器であるMMANAでも簡単に算出できます。
1 アンテナをリアルグラウンドで通常に設計する。
またはメーカ製のアンテナデータを入力し計算させる。
2 そのまま自由空間に切り替えて計算しなおす。
3 パターンタブの【水平パターンの仰角】で角度を
入力し表示させる。
(自由空間における仰角は俯角と同一値である。)
4 dBiからさらに2.15dBを差し引きdBdとして俯角減推量とする。
これだけです。
直下、最短距離となる俯角、歩道や公園などの俯角などに
あたるところは、サイドローブが出ている場合も考慮して
角度を細かく計算しておくと良いでしょう。
後は算出された俯角別の空中線利得を例の計算式にぶち込む
だけです。
*参考 64°が最短距離の場合
空中線高 18m
最短距離の高さ
・床までの高さ 6m
・人間の頭まで 2m
距離(18-6-2)/sin64°= 11.126m
注意
1 上記計算方法は北海道総合通信局ではお墨付きを
いただいていますが、他の総通でOKかは分かりかねます。
2 一本のタワーに複数のアンテナが上がっている場合は
単体時の俯角減衰量と異なりますので、シミュレータを
使用するときは実際の状況(スタック状態)で計算します。
というか、シミュレータを使うからこんな計算もできるのですよね。
お墨付きをいただいたときの計算例(完成形じゃない) ⇒ ここ です
(xlsxファイルですが、決して怪しげなマクロは忍ばせておりませぬ!)
余談
例に出した11eleQuadはリアルグラウンドでの計算上はover19dBiであります。
本来は直下は-19.61dBdを採用すべきなのに、17dBd(19.15-2.15)と仮定して
そのまま計算式に放り込んだら、36.61dBも損(?)をしてしまいます。
実際には直下で3m(必要距離1m+人間の身長を2mとする)もあればよいのに、
間違った計算では94m(92+2)というとんでもない計算結果になってしまうのです。
【反論がきた@メール】
反論内容
反論にはいろいろな計算式等とそれを使用する理由が
書かれていましたが、つまるところ自由空間ではなく
リアルグラウンドでなくてはいけないという趣旨のご高説でありました。
反論の反論
細かなところの説明は省いて一点のみで反論に反論します。
水平ダイポールはリアルグラウンドにおいて地上高により
利得が生じます。
1λ程度に上げたダイポールは7.4dBi程度となります。
(17mhigh18.118MHzで計算)
このアンテナを自由空間におくと、2.15dBiとなります。
(無損失のワイヤー、かつ両者とも共振状態にするため
若干寸法が異なる)
水平面の8の字指向性は両者ともほぼ一緒なので、≒5dBの
利得は、垂直面の指向性により生じたものです。
13.5°あたりがピークの仰角となり、直下の空中線利得は
約-1dBiとか-2dBiなんて値になります。
つまりしっかりと俯角減衰量を持っているのですが、
ダイポールは俯角減衰量を加味することになっていません。
水平ダイポールの俯角減衰量がゼロ、つまり自由空間での計算
ということになります。
以上
アンテナの打ち上げ角は、巨視的にみて生じるものであり、
エレメント近辺の電磁界は全く違う振る舞いであるということです。
メールでも結構ですがコメントに残していただければ嬉しいです。
といつも言っているのですが、メールか電話でしかコメントを
いただけないのが残念です。
来訪者数の割にはコメントが極端に少ないというのがこの
ブログの特徴で、目立つのでコメントを付けづらいのが理由らしいです。
来年の目標はコメントのつけやすい投稿内容?(笑
本年はお世話になりました。
来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
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