同軸ケーブル

拙生が長いQRTから再開局した30数年前、技術に長けていると
信じていたあるOMに、50Ωの同軸ケーブルより75Ωのほうが
電圧が高く発生するので、ロスが少ないと教えられました。
なるほど理にかなっていると思い、ダイポールアンテナなどは
5C2Vを採用し、50:75Ωのマッチングをわざわざ作ったりしました。

しかし、遠~い遠~い昔学んだアンテナ理論で、記憶の端っこに
同軸ケーブルのインピーダンスはどうして決まったのかということを
教えられたということのみちょいとだけ残っていて、なにか違和感を
感じたので、機会があった時本屋の立ち読みで思い出しました。

要約すると

d=同軸ケーブルの芯線直径
D=同軸ケーブル外部導体内径

であるならば

表皮効果により各々の近隣表面を流れる電流のロスが
一番少ない比が

d/D=0.2785

となり、この比は誘電体に影響を受けない。
ということです。

同軸ケーブルが世に現れた当初は絶縁体が主に空気(比誘電率≒1)
であったため、この比においてのインピーダンスは75Ωでしたが、
形状に融通がきかず、ロスの少ない柔軟性のあるポリエチレン
(比誘電率≒2.2)が絶縁体として使用されるようになったため、
特性インピーダンスが約50Ωになったわけです。

で、現在の75Ωケーブルは、最小ロスの比ではなく、比誘電率
2.2の絶縁体を用いた状態で、特性インピーダンスを75Ωに
保つために、内部導体径を50Ωより細くしています。
つまり芯線の表面積は小さくなり、更に最小ロスの比でもなくなるので
ロスは50Ωのものより大きいってことですね。
TVの受信ケーブルは75Ωですが、大電力を扱う送信用ケーブルは
50Ωであることを考えれば、分かりそうなもんですよねぇ。

今なら現役から離れて40年経っているので、忘れても言い訳できますが(?)
現役に近い当時で、すでにこんな大事なことを忘れているなんて・・・
ただ
同軸ケーブル特性Z = 138/SQRT(ε/εo)* log (D/d)
だとか、
平行線特性Z= 277*log(2*D/d)
など、試験に出るようなものは今でも何となく覚えてるって一体。。
ストリップラインは・・・忘れました。^^;;
(現在これらの関連公式は表計算ソフトに放り込んであります。)

■ 追記 2014/2/9の投稿記事【伝送速度@比誘電率による短縮率】

先日仕事関係で伝送速度の話がでて、その中でつい比誘電率の小さな
絶縁体で作ったケーブルを使えば、いくらかでも早くなると言ったら、
それはどうして?と聞かれ結構長時間説明するはめになってしまいました。
で、その内容をアマチュア無線に馴染み深い同軸ケーブルに置き換えて
書いてみますが余談の部分は上記の説明時にはなっかた話です。
他の部分でも追加した部分がありますが、一番時間を掛けて説明した
位相速度の詳細は割愛してあります。

伝送経路における伝搬速度(Vp)は以下の公式で算出します。
Vp=(3*10^8)/√(μs*ℇs)
(実はVpが位相速度なのですけど。)
同軸ケーブルの材料には磁性体が使われていないので、μsは無視(μs=1)します。
厳格な方は3ではなく2.9979とかで計算するみたいですけど、拙生は
実にアバウトですから。。。

【*D-2Vタイプ】

絶縁体に使われているポリエチレンは比誘電率ℇsが2.2~2.4ですが、
*D-2Vなどに使われている短縮率0.67から逆算すると2.227となります。
メーカによっては0.66(ℇs=2.229)となるものもありですので、若干
密度等が異なるのだと思います。

【*D-FBタイプ】
*D-FBに使われる発泡ポリエチレンは計測上で短縮率が0.79でしたので、
比誘電率は1.602が算出でき、一般的にいわれている1.6~2.0の範囲内の
端っこに引っかかってます。(笑

(短縮率≒√ℇsの逆数 または ℇs≒短縮率の2乗の逆数)

余談

内部導体の外径(d)と外部導体の内径(D)、それに絶縁体の比誘電率が
明らかな場合は、特性インピーダンスだけでなく静電容量も計算できます。
C=(55.63*ℇs)/ln(D/d) 【pF/m】ですが、自然対数(ln)ではなく、
常用対数(log)で計算したいときは、C=(24.16*ℇs)/log(D/d)【pF/m】
が概算となります。
いずれにしても分母にあるlog(D/d)が小さい(D-d間が狭い)ほど、
また分子にある比誘電率の値が大きいほど静電容量は大きくなります。
5D-2Vと10D-2Vのように太さが異なっても、1mあたりの静電容量が
約100pFと同じになるのは、使用絶縁物の比誘電率とD/d値が一緒だからに
ほかなりません。
ちなみに75Ω系の*C-2Vは67pF/mですね。
絶縁体が発泡ポリエチレン使用の10D-FBを計算してみると、
C=(24.16*1.6)/log(10/3.5)≒84.8pF/mとなりましたが、メーカ発表の
83nF/Km(=83pF/m)とほぼ一致します。
前述のようにあくまで概算ですが、精度はそう悪くないようです。
特性インピーダンスZoの公式(138/√ℇs)*log(D/d)はあまりにも
有名で説明の必要もありませんね。
仕事関係の場でこの手の話を避けたのは、平行2線なら大丈夫ですが
実際に使うツイスト多芯数線に関する具体的な知識が乏しかったからです。

話は戻ります。

このように短縮率か絶縁体比誘電率のいずれかさえ分かれば、
もう一方も計算できます。
厳密には内部導体が単線か撚線、外部導体がアルミ箔や銅箔、
パイプ以外のもの、例えば網線などでではそれぞれに補正値が
あるのですがたいした補正ではありません。
例えば単線の実効内部導体外径を1とすると、7本撚線では0.94とか
12本撚線以上であれば0.98になります。
また外部導体に網線を使用した場合、実効誘電体外径(=外部導体
内径(D))は+1.5mmの補正値を持ちます。

これも絶縁体のℇsと特性インピーダンス50Ωが一緒なら、
単線・撚り線やアルミ箔・網線の違いがあろうがなかろうが、
補正値を含めてD/dが決定されているわけで、同軸ケーブルを
自作するときや特性の分からないケーブルの断面を調べた結果から
計算するときなど以外は特に意識することもないでしょうけど、
知っておいて損はありません。。。

余談2
ここまで書くと、昨年投稿したシュペルトップの電気長は、物理長で言うと
λ/8程度となると言う意味を理解していただけたかと思います。
シース(外皮)に使用されているPVCは誘電率が3.5程度ですので、
短縮率は0.535となり、物理的にはλ/7.48で電気的λ/4となるからです。
物理的λ/4などにしてしまうと、電気的にはλ/2に近づいてしまうので、
シュペルトップの原理とは全く異なる振る舞いとなってしまいます。

*注意 PVCの比誘電率は、材質(特に硬質か軟質か)でかなり異なります。
   メーカの仕様でもシースの比誘電率までは書いていないので、
   実験してその結果で見極めることになります。
   比誘電率が3.5より高い場合は、物理長λ/8以下でも、電気的
   λ/4になる可能性があります。

(外部導体のことを外皮と言う人がいますが間違いです。
 外皮はあくまでシースのことです。
 ポピュラーなアンテナ製作本などの記述にも見られがっかりします。)

短縮率は伝送線路(アンテナを含む)を伝わる電磁波の波長と
真空中の電磁波の波長の比であることから、比誘電率の高い
被覆線などを使用したワイヤーアンテナの共振長が短くなる
(=伝送速度が遅くなる)のがよく分かりますね。
勿論アルミパイプ表面保護用のなんちゃらコートを塗ることでも
比誘電率が存在することになり短縮率が発生します。
ビニールテープをパイプ全体に巻き付けても同様だし、裸銅線などを
グラスロッドに這わせても短縮率が発生します。

最終的にはカット&トライで追い込むのでしょうが、やみくもに
調整するよりは、あらかじめ比誘電率を調べて、どのくらいの
短縮率になるのかを予備知識として持っていればかなり楽でしょう。

 
 









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