スワが高いと・・

スワ(SWR)が高いと同軸ケーブルから電波が発射され、
インターフェアが出やすい。。。
そんなことをよく聞きますが、ハッキリ言って間違いです。

反射波について

ただ単に、送信機の出力インピーダンスと、負荷
(アンテナ)のインピーダンスが違っていて、SWRが
高い場合について考えます。

今更の話ですが、同軸ケーブルに高周波を流した場合、
芯線と外部導体(編線など)に流れる電流は芯線が
プラスなら外部導体側はマイナス、つまり逆相です。
(ノーマルモード)
逆相であるため引きつけ合い、表面に近いところに
電流が流れる。ご存じの表皮効果ってやつに拍車を
かけているってことですね。
つまり外部導体には、芯線に近い内側の表面に電流が流れ、
外側には流れないため、シールド効果が発生します。

アンテナにバラン、送信機側にコモンモードフィルタなどを
装着し、理想的な条件を満たしている場合、単に送信機と
負荷のインピーダンスの食い違いが生じると、アンテナ側で
反射波が発生します。
反射波は送信機まで戻ると、これまた理想的な条件が
揃っている場合、全部が位相を揃えられてアンテナ側に
追い返されます。
そのまた一部が反射波として戻ってきますが、再度
位相を揃えられてアンテナ側に追い返され、何度かそれを
繰り返すうちに、ほとんどのエネルギーがアンテナから
輻射されていくことになります。

これらの進行波・反射波ともにノーマルモードであり、
コモンモードの電流として外部導体の外側を流れ、
電波として輻射されるということはないのです。

全部が位相を揃えられてアンテナ側に追い返される場合とは、
送信機と同軸ケーブル間にアンテナチューナなどを挿入し、
マッチングを取っているなどです。

アンテナチューナーなどでマッチングを取ることは、
送信機側の最適負荷とするための効果しかなく、気休めと
いう方もおられますが、送信機の安定動作のためだけ、
ということではなく、トータルした輻射効率に役立ちます。
ただし、何度も給電線を行き来するために、ケーブルロスが
その都度効いてくることは避けられませんけど。

勘違いしては困るので追記しますが、じゃあアンテナ
チューナーでマッチングが取れれば、どんなアンテナでも
大丈夫?って声が聞こえてきそうですが、それは否です。
あくまで送信機からの出力をアンテナから輻射するための
効率改善の方法であって、アンテナ自体の性能に寄与
するものではありません。
共振周波数が送信周波数から外れたアンテナは、いくら
電力を送りこんでも、電流の振幅が小さいのは当たり前です。
エレメントの共振時のインピーダンスが、送信機のそれと
食い違った時などに威力を発揮します。
例えばメーカ製アンテナをあげたところ、反射が大きい場合や、
移動運用などで細かな調整が困難なので、共振するエレメント長を
計算してあげた場合などです。

さて、同軸ケーブルから輻射する要素となる電流は、
すべてコモンモード電流です。
(クレームにより追記-同軸のシールド特性により漏れがあります。
ただしよほどの粗悪品でないかぎり、HFにおける漏れは微々たるもので
無視してもよいでしょう。)
コモンモード電流が流れる様子を、一般的な水平ダイポール
アンテナ(または八木アンテナなどのラジエータ)で
説明するために、以下の図(1~4)を示します。


図1で直流的に考えてみます。
25Ωの純抵抗をシリーズにして、中間をアースに落とし、
両端に電圧を加えた場合、給電線がアースと切り離されて
いるときは、アースは無視されて電流が流れます。

ところが図2のように、給電線の片側をアースに落とし、
A点とB点がショート状態になると、電流は左半分の
25Ωを流れたあと、アースを通しB点に向かいます。
つまり右半分の抵抗は無視されます。
給電側の出しが50Ωなら、マッチングはとれませんね。
さらにこれがアンテナだとしたら、エレメント半分は
働いてないことになります。

図3はアンテナの等価回路です。
実は中点のアースとは、大地との結合ですので、
実際にはリアクタンス成分を含んでいます。
もし送信機側でアースを取ったとしても同様です。
この2つのリアクタンス成分により、直流のように
まったくのショート状態にはならないので、
電流の一部は右側エレメントにも流れますが、
残りは不用意なアースを通して送信機に直接
戻っていきます。
これがコモンモード電流となります。
つまり、本来はバラン型と言われるアンテナを、
アンバランスな電流の流れにしてしまったわけです。

このことにより発生した同軸ケーブルから輻射される
電波により、インターフェアの可能性は高いですが、
あくまでバランスが崩れたことによる同相電流の
悪戯によるものであり、スワが高いから・・・
ということでは決してありません。

じゃあ送信機側をアースに落とさなきゃ良いって?
残念ながら送信機も寄生容量などによる迷結合で
大地とつながっているんです。

特例@こじつけ
しいて言えば・・・の話ですが、バラン入りのきっちり
調整してある平衡型アンテナにおいて、バランの不具合
(たとえば焼いたとか・・)で、とりあえずバラン抜きで
同軸ケーブルを直結した場合、片肺の負荷となるので、
SWRが悪化する場合があります。
当然コモンモード電流が流れるので、スワが高くなって
同軸ケーブルから電波が出て、インターフェアが・・・
と言ってもおかしくないかもしれないという
こじつけでした。^^;;

図4はその対策のスタンダード

ズバリそのものなのですが、バランス型のアンテナには
バランを挿入するってことです。
図では1:1のリニア(強制)バランを示していますが、
動作は簡単かつ効果大であります。
同軸ケーブルはアンバランスですので、外部導体側を
繋ぎこんだところをアースとみなすと、アンテナ側の
巻き線は、そのアースがちょうど中点となるため、
アンテナ共々バランスが取れるという仕組みです。
ホーイストンブリッジを思い出していただければ、
A点とB点間には電流は流れないことが分かります。
つまりコモンモード電流が阻止されます。

単にバイファイラ巻きのコモンモードチョークを
バラン代わりに代用した場合、ノーマルモード電流には
影響なく、コモンモードではA・B間のリアクタンスが
高まるので、コモンモード電流は阻止されます。
理想的なチョークでも、リニアバランよりは、10~20dBほど
バランス効果は劣りますが、アンバランスのGPなどは勿論のこと、
バランス型のアンテナであっても、設置条件などで大地との
バランスが大きく崩れている平衡型アンテナなどは、
こちらを使用します。
送信機側でコモンモード電流とのアイソレーションを
取る場合も、このコモンモードチョークが有効です。
フェライト系のトロイダルコア(FT-240など)に、
同軸ケーブルを巻きつけるだけです。
トロイダルコアは通しただけで1T(ワンターン)なので、
同軸ケーブルの外径より、内径が少し大きなコアを10個
通しておけば、10Tということになります。
また、スリーブフェライトクランプ(分割コア)をパカパカ
はめていってもよいでしょう。

これをソーターバランなどと呼ぶ人がいますが、
拙生はバランだとは思っていませんし、この呼び方が
好きではありません。
読んで字のごとく「まがい物」であり、どちらかと言うと
バランと呼ぶのは間違いだと思っています。
バラン(Balun)は、平衡(balance)と不平衡(unbalance)の
合成語であり、バランス:アンバランスを変換するものです。

コモンモードチョークは、あくまで高周波的にアースから
フローティングし、同相電流を流さないようにするための
アイソレータであり、接続はバランス:アンバランスに限らず、
バランス:バランスでもアンバランス:アンバランスでもOKです。

(逆にリニアバランをGPに繋いだなんて話も聞きますが、
これは全くの間違いです。)

話は戻りますが・・・
アンテナからの反射波が送信機にたどり着いたとき、
送信機の終段などに一部吸収され、送信機自体の動作が
不安定となり、インターフェアを発生させた場合。
同軸ケーブルから電波を輻射させることはありませんが、
スワが高くてインターフェアが・・・ということが
あり得るので、特例として書いておきますが、
真空管式のリグのように、出力回路に可変パラメータを
もっているものや、50Ω固定の出力回路でも、それなりの
マッチング回路を設けてやれば、前述の通りで
送信機側に悪戯する前に、アンテナ側に追い返されます。

マッチング回路を別途設けなくても使えるアンテナが
一番ですが、逆にVSWRが良いアンテナ=高性能では
ないので、反射がないからといって喜んでばかりは
いられません。
特にバンドエッジなどにおいて、あって当たり前の反射が、
周波数帯全域に対しほとんどないなんてのは、ダミーに
近いものと考えるべきでしょう。

例をあげると、全長10mもない40m用短縮ダイポール。
通常フルサイズ20m以上ののアンテナをここまで短縮すると、
入力Zは条件によっては20Ωとかそれ以下になるときもあります。
また1.5>の帯域なども非常に狭いのが通常です。
にもかかわらず、マッチング回路もないのに反射が少なく、
帯域もそこそこあるような測定結果が出た場合は、決して
喜ばずに嘆いてください。
ローディングコイルなどの損失が入り込み、その損失が
見掛け上のインピーダンスを持ち上げるのと同時に、
ダンピング抵抗替わりとなってアンテナのQを下げ、
帯域まで広く見える・・・
まぎれもなくダミーに近いアンテナであることは
間違いありません。
電力のかなりの部分は電波にならずに、ローディング
コイルを熱しているということになります。

極端な話

25m高の水平ダイポールにおいて15m程度のエレメントで
160mに共振させようとした場合、ボトムローディングだと
片側160μH強のインダクタンスが必要です。
このコイルのQが300であった場合、フルサイズと比較して
-10dB程度で、共振時のインピーダンスが14Ω位です。
なにがしかのマッチング回路を採用し、foにおいてVSWR=1で給電しても、
VSWR<1.5の帯域は、実に4KHzという狭さであります。
両バンドエッジではVSWR>6となってしまいます。

コイルのQを80まで下げるとどうでしょう。
入力インピーダンスは50Ω近くまで上がり、VSWR<1.5の
帯域も倍くらいに広がります。
両バンドエッジにおいてもVSWR≒2となります。

Q80の方が優れてる?
いえいえ、Q300と比較すると、5~6dB落ちとなります。
だんだんダミーに近くなってきていますね。

(こんなアンテナを使っている方は稀でしょうけど、
比較の意味で採用しました。)

おっと、またとっ散らかってきました。。。

とっ散らかりついでにおまけ

いわゆるスワ計と呼ばれるアマチュア無線向けの測定器は、
進行波をフルスケールとし、反射波を相対的に見ているものが
多くあります。
しかし業務でよく使われるBird43やフジソクなどの通過型
電力計は、進行・反射とも絶対値で表示します。
慣れている方は、進行波に対し反射波が4%でVSWR=1.5とか、
1%ならVSWR=1.22などと、進行波が1KWとかで切れの良い
数字だと暗算でも計算可能ですが、だいたいは半端な
数字となるでしょう。

以下に計算式の入ったExcelファイルを置いておきます。
ここ

ついでなので、リターンロスの計算式もサービスサービスぅ!
ここ

マクロを使える設定で使用してください。

いつもとっ散らかりで済みませぬ。。

*スワ・・・実は大嫌いな言い方であります。

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