リニアアンプ

最初に言い訳しておきますが、製作歴は長いものの
拙生はプロではないので、大いなる勘違いや思い込み
による記述があるかもしれません。
あくまで薄識(博識ではありませぬ。)の中で、
もがき苦しみながらなんとか完成させ、その時に得た
知識や経験を披露するということで、それは違うぞ、
とか、こんな考えもあるぞというご指摘やご意見を
いただければ幸いです。

さて、言い訳が終わったところで本題です。(笑

リニアアンプといっても、受信機で使うRFアンプや
OPアンプ、そして送信機に使うものまで、さまざまな
種類のものがあります。
ここでは、アマチュア無線においてトランシーバーと
アンテナの間に設置し、数百WとかKWまで電力増幅する、
リニアリティ(直線性)がすぐれたアンプ(主に真空管)
について、備忘録的な意味合いを含め、メモ的書いてます。

余談などで関連事項を書いているうちに、タイトルから
かけ離れていくとっ散らかり様は、拙生の特徴だと思って
勘弁してください。

改めてリニアアンプとは、
大雑把に言うと・・・直線性のあるアンプ
つまり、エキサイタ-からの入力電力を増加させると
それに比例して、出力が増加する動作範囲で設計された
アンプのことです。
入力 5W → 出力100W
入力10w → 出力200W
入力15W → 出力300W
のごとくです。
入力に対し20倍出力されるので、電力比で13dBの
利得があります。
この範囲では、入力された波形は電力増幅後も
相似形を保ち歪みはありません。

ところが
入力20W → 出力350W
のように直線性が保てなくなると、リニアアンプとしての
動作範囲を超えたことになります。
範囲を超えると、入出力波形は相似形を保てなくなり、
スプリアスの原因となります。
(出力同調回路のフライホイール効果などにより
 軽減はされますがここでは加味しません。)
上記のようなアンプを、利得13dBの300Wリニアアンプ
と呼びます。

さらに入力する信号、例えばCW(またはSSBにおける
シングルトーン)やSSB・FM等により、アンプの
能力は異なります。
アンプにはGB積が一定という原則があります。
GB積はGain-Bandwidth Product =利得帯域幅積のことで
つまり帯域が広いとゲインは下がる。
直線性についても、頭打ちが早く現れます。

したがって、SSBにおいて使用するアンプの直線性は
シングルトーンでみてもNGで、通常は2トーンで平衡変調を
かけたもので測定します。

CWまたはシングルトーンで測定したものが300Wであっても、
2トーンでは200Wで直線性が頭打ちすれば、これはまさに
200Wリニアアンプであります。

リニアアンプ製作の考え方

真空管リニアアンプは大概の場合、単なる1段の増幅器です。
回路においては、受信機の方がはるかに複雑で高度です。
では簡単?って言われると・・拙生はそれは否と答えます。

通常リニアアンプを製作する場合、使用デバイス(ここでは
真空管)の能力を、最大限引き出そうとするのが一般的です。
使用例が多く公開されている場合を除けば、定電流特性などを
穴のあくほど眺め、そして計算し、その真空管に必要な
各電極の電圧や電流を見定めて、設計しなくてはなりません。
ですからビギナーは最初は多く公開されている製作例を
参考にされることを強く推奨します。
ただし、製作例にはプロ顔負けのものから、こんなんで
良いの?っていう適当なものまで、様々です。
高圧を扱い命の危険もあり得ますので、ある程度の事前
知識を持たない方は製作の資格はないと考えます。

製作例の中には、パワーを絞り出したいがために、各電極の
印可電圧や損失を逸脱したり、回路図では分からない
強制空冷がしっかりできていなかったり、事前調査(実験)の
甘さで、球独特の特徴を把握していないがための間違いが
あったりするものが、結構散見できるのです。

以前免許されていた7F71RFという真空管は、プレート損失(Pd)が
4KWという大型管で、これについて考えてみます。
(7F71RはPd3.5KWでほかは一緒。7F71RFと差し替え可。)

業務では、1KWFM送信機の終段とか10KW送信機の前段としての
使用例が有名です。
つまり、ちゃんと作れば100%デューティの電波形式でも、1KW
24時間連続送信が可能であり、RTTYのスローキーイングや、
29MHzのFMでも余裕のよっちゃんであります。

最大定格
プレート電圧(Ep) 5000V
プレート電流(Ip) 1.8/2.4A
コントロールグリッド電圧(Ecg) -500V
スクリーングリッド電圧(Esg) 1000V
プレート損失(Pd) 4KW/7F71Rは3.5KW
コントロールグリッド損失 20W
スクリーングリッド損失 50w
周波数 300MHz(250MHzと記されたものもあり)
またフィラメントは4V78Aで、300W越えという代物で、
クーリングは QR=4.5m3/min SP=441Pa が必要です。
(詳細はのちほど。)


これをもとにAB1級のアンプの設計してみます。
ただし、直流的に球の動作を予測する程度のものであり、
もちろん球の個体差や外的環境により、そのとおりになるとは
限りませんので、拙生は必ず直流的に、バイアスの変化による
Ipの測定を行います。
これは球を交換しした時なども、その都度行う儀式です。
直流的なデーターを得、バイアスの変化分実際の高周波に
置き換えてスイングしたとき、その通りのIpが流れるか
というと、回路損失などから、なかなか理屈通りには
いかないのですね。
50Ωで何Vスイングするためには、何W必要か。
E=SQRT(PR)だけど、ピークだとSQRT2倍だから・・・
などとというのは目安にして、結局は予定Ipまで
流れるようにドライブすることになります。
かといって、直流的な動向を事前に測ることは、
決して無駄ではありません。
Icgが流れないから、まだ押せるのでは・・・
なんて考える球でないことは、定電流特性曲線や
事前実験からすぐわかることで、その球の個性を
知ることはとても大事なことです。

7F71R(F)は、Esgが500Vのときが一番ゲイインが高いと
言われていますので、500Vに決定!


Ep=2500Vでは利得はこんなものでしょう。
とりあえずEpは5000Vとしますので、1.6A 時の相互
コンダクタンスが65mSのこの球の利得は、こんなもので
あるはずがありません。(笑

余談
65mシーメンスは昔65mモーでしたよね。
相互コンダクタンスgm=ΔIp/ΔEg ですが、
電流を電圧でわることから、Ω の逆数のように
見えるため、にしたのだとか。
どぉでもいいことですね・・・

AB1級ですから無入力時も、なにがしかのアイドリング電流を
流しておかなければなりません。
そこで定電流特性曲線を眺めてみることにします。

Ep・Esgが上記の条件では、低入力時に若干裾野が伸びて
いますが、上はIp8Aになっても直線性は保っています。
もちろん5A以上はIcgが流れ、AB1級ではなくなりますし、
最大定格から5Aも流すことはないので、多少無理な
使い方でも、直線性は大いに期待できるということですね。
ちなみにAB1級のアイドリングは、Pdmaxの半分程度が良いとされ、
2KWとするには400mA流すことになります。
アイドリング電流を400mA流すとすると、Ecgはおよそ-68V。
最大でIp1.5A流すとし、その時のCg電圧をみるとおよそ-45V。
実際に高周波でドライブすると、逆の半サイクルで-91Vと
予想されるので、この電圧はカットオフ近辺であり、このことから
極めて優良なAB1級ということになります。

実際に上記の予定通りになるのかは、前述の通り実際に確かめます。
そのために拙生は、Ecgは特性表から読み取れるカットオフから
予定最大Ipまでは、連続可変できるものとします。
Icgを流さない限りは、数Wのボリュームでも可変できますが、
一時的ならともかく、恒久的な回路構成においては、ガリって
接触が悪くなった時に、バイアスが掛からなくてIpラッシュ!
なんて回路は採用しちゃだめです。
理想的には定電圧回路に置き換えるべきでしょう。

高周波として出力されないアイドリング時は、球の全損失と
なりますが、PTTを押しただけでプレートで2KW、
フィラメントが312W、他諸々で約2.5KWが熱となっている
ということです。
小さな部屋の暖房になりそうですね。。。^^;;

で、max5000x1.5=7.5KWの入力があり、うまくいって60%が
高周波となってくれれば、4.5KW出力、損失3KWとなります。
これをエキサイターのパワーを絞って軽くドライブし、
1KW出力で使うなら、安定性やIMD特性の素晴らしい
リニアアンプとなること請け合いです。

ちなみに500Wの免許(古い!)において、TS-950のパワーを
絞り切っても(10Wにしても)バンドによっては軽~くオーバー
してしまい、内部をいじって600W以下とし、ハイバンドでは
400W弱でなんとかクリアできました。
書面での指示ではありませんでしたが、口頭でもうちょっと
周波数特性をよくした方が・・・というご指導をいただく
ことになりました。。。
エキサイタが10W機で、上限の12W程度まで出れば、
1KW免許でも取得できそうです。

さて、最大電流を決め打ちし、きれいな高周波を生成しようと
アイドリングを流すほど、有効な高周波成分が圧迫され、
当然効率は落ち、50%とかそれ以下になってしまいますので、
損失が規格を超えないよう、十分注意しなくてはいけません。

以上のことから、ひずみの少ないアンプは電力消費も大きい
ということが分かります。

次に実際に高周波を入力することを考えます。

入力回路

グリッド入力の場合、電圧ドライブとなり、AB1級では
電流が流れないため、高インピーダンスになります。
4極管である7F71RFにはCpgの0.3pFが存在するため、
トップバンドとかはともかく、ハイバンドにおいては
低インピーダンス化をしない限り中和が必要です。
エキサイタ-に50W程度の出力があれば、50Ωの無誘導
抵抗受けて電圧を発生させてドライブするのが、最も
簡単な方法です。

しかし単純に無誘導抵抗の50Ωをぶら下げても、7F71RFの
入力容量は54pFと大きく、こいつをキャンセルしないと、
入力インピーダンスを下げてしまいます。
簡単な方法は、インダクター(コイル)を入力容量と
パラに接続し、(50Ωにパラと一緒)並列共振させることで、
50Ωが無視できるような高インピーダンスにしてしまいます。
例えば18.118MHzだと、約1.4μHのコイルをぶら下げます。
ローバンドで大きなコイルが必要な時は、適当なトリマVCも
パラってしまえばそんなに大きくならないし、コイルより
トリマのほうが共振周波数を探しやすいでしょう。
ここで必要なのは50Ωが無視できるほどの高インピーダンス
であり、回路のQとかは無視できます。
(LCだけのQを考えても、50Ωがパラに入るためダンピング
 抵抗となりQは下がる。)
入力にフライホイール効果を期待するときは、別途考える
ことになります。

またまた余談

その昔、某OMが6mアンプを急ぎで組んだ時、その辺にあった
かなり古い大型の50Ωカーボン抵抗でエキサイタからの電力を受け、
グリッドドライブとしたそうです。
特に問題なく稼働したそうですが、その後気になって無誘導抵抗に
交換したところ、VSWRが立ちパワーが出なくなったそう。
カーボン抵抗はらせん状に溝を切ることでトリミングしているため、
そのL分により、入力容量との合成Zが、50MHzでハイインピーで
あったということなのでしょうね。

例えばエキサイタが10W機などで余裕をもってドライブ
したい場合は、200Ωで受けて高い電圧を発生させると
よいでしょう。
入力容量のキャンセルは50Ωと同様に行います。
200Ωは便利な値で、トロダルコアのバイファイラ巻き1個
ないし2個で、1:4(巻き数比1:2)を作ることで、簡単に
ステップアップが可能です。
ステップアップトランスではなく、T型のマッチング回路を
設けてやってもOKです。
インピーダンス変換だけならπ型など他のものでも可能ですが、
50Ωをそれ以下に変換する場合はπ型で、それ以上に変換
するときはT型とすることで、高調波の抜けを阻止できるので、
気分の問題です。(笑
(50Ω:50Ωの時はどちらでも構いません。)
200Ω位ではよほど下手に作らなければ中和は必要ありません。

さらに考える

エキサイターが200W機などで、パワーが有り余っている場合。
入力を50Ωx4パラの12.5Ωとすれば、よほど高い周波数でない限り
キャンセル用のコイルは省略できます。
というのは入力容量54pFは、50MHzにおいてのリアクタンスが
50Ωにパラに入ると、合成インピーダンスは38.14Ωとなるるのですが、
12.5Ωでは12.23Ωであり、気にならないほどになるということです。
CR並列合成インピーダンス=1/(SQRT((1/r)^2+(ωC)^2))で
算出しましたが、合ってるかな・・・^^;;

ちょっと外れて・・・

GG回路の入力を考えます。
直熱管の場合はフィラメント、傍熱管の場合はカソードへの
ドライブとなりますが、ここには各電極に流れる電流の
コモンとなっているため、SSBのようにパワーが一定でなく、
時間とともに電流が変わる場合は、インピーダンスが
定まりません。
しかし、ここは予定最大パワー時に流れる電流、その時に
必要なドライブパワーにより算出することになります。
これだけ押したらどんだけ流れるなんて、特性表から
細かなことまで読めねぇぞぉ!って、あまり神経質に
なることはありません。
AB1級の場合は、カソード電流≒プレート電流ですし、
ベタコンアース(各グリッドをまとめてアースに落とす)
の場合は、プレート電流x1.3位(かなり適当)で計算します。
(7F71RFでは各グリッド損失を見る限り、ベタコン方式は無理)

拙生の場合、おおよその当たりをつけて、50>Zinの場合は
π型、50 HOME