医療現場から身を引く

息子が小児科医をしている友人に会いました。
5年ぶり位でしょうか。
いつも笑顔で元気が良かったのに憂鬱そうな
顔をしているので尋ねると、息子が大学の
勤務医を辞めると告げられたのだそうです。
自慢の息子で、医師になったことを誇りに
思っていた父親ですから当然です。
辞めたい理由は近年の医療崩壊に対しての
憂いを我慢できなくなったということで、
医療事故とかそれによる刑事・民事訴訟など
ではないと言います。
息子とは何度か会っていて、責任感の強い
好青年であり、その彼が辞めたいというのですから
決して安易な発想でないことだけは分かります。

もちろん長年蓄積した下地があっての事でしょうが
きっかけは救急医療の際に患者さんが亡くなり
専門医でないのに治療に携わったことで、訴訟には
至らなかったものの家族から強烈な抗議があった
とのことです。

普段はブログにこの手の話を書くことは極力
控えていますが、今日はちょっと書いてみます。
これは拙生の認識内で書いているので、間違った
部分もあるかも知れません。

非専門医の医療行為の是非は置いておくとして、
救急医療の現状は非専門医の医療行為を含めて
成り立っているのだと思います。
救急専門医だけで救急医療が成り立つ病院って
一体いくつあるのでしょうか。

以前は問題が起きなかった事例でも、刑事・民事
控訴される事例が増加したことで、多くの病院が
救急医療から撤退、及び縮小しつつあるために
救急医療は大学病院など大規模病院に集中して
いると聞きます。
ではその分救急専門医や救急医療設備が大規模病院に
充実しているのかというと残念ながら十分ではありません。
相変わらず現場医師の責任感と激務に頼るところが大きく、
しかも過酷な労働条件の割には報酬は多くありません。

息子さんはそれに不満で辞めるのではなく、
ある意味ボランティア精神で行う医療行為により、
刑事責任に問われれば、犯罪者になりうる可能性が
あることと、マスコミなどが世論に迎合してそれを
煽っていること、さらに現状の改善を口にしながら
真逆の施策打ち出す国を憂いているのです。
病院自体が小児科を縮小する検討を始めたことも
やる気を萎えさせた一因のようです。

もちろん父親にしてみれば違う感情もあるでしょう。
自分はタバコや酒をやめて、昼飯を抜きながら
家をもう一軒購入できるほどの金額を学費としてつぎ込み、
さらに薄給の研修医時代も仕送りをして、やっと
多少まともな報酬(と言っても思ったほど多くない)が
得られるに至っているのですから、頭で理解しても感情的に
納得できない部分があるのは十分すぎるほど理解できます。

医療体制に大幅な改善がなければ、現状は永遠に継続し、
自身ではどうにもならない歯がゆさが医療という世界から
自身を撤退させることを選択した要因であることは容易に
想像がつきます。

政府は様々なことを行政主導で行うよう画策していますが
医療も例外でなく報酬や人事権などで行政が主導権を
握る動きが活発化しています。
団塊の世代の高齢化により膨れ上がる医療費をいかに
抑えるかに躍起なようです。
今まで必死に日本の成長を支えて来た世代をお荷物だと
言わんばかりに切り捨てたがっているようです。
口の悪い友人などはまるで早く死ねと言われている
ようだななんて怒っています。

医療体制を崩壊させるような政策を打ち出して、
それに関わる医療事故発生などの責任は、極力
現場医師に押し付ける。。。
やる気満々だった青年のやる気を削ぎとる。。。

嫌な時代になりました。

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