コモンモード電流について

全く違うぞ!とご指摘を受ける可能性があることを
踏まえたうえで、このような感じくらいのノリで
ある方に説明したことの内容をポストしておきます。
ビギナーがアンテナのコモンモード電流を考えるときに
参考になるのではと思います。

まずはアースグラウンドを理解する

拙生は仕事で通信設置機器の設置なども行いますが
通常そういった機器にはSGとFGという異なるグランド
があります。
グラウンドとアースとコッチャにしている方も多いのですが、
アースはあくまで大地に対する接地であり、信号や電源の
電流が還流路の帰路として使う配線やパターン・シャーシ
などはグラウンドと言います。

FGとSG

FGは機器の筐体やそれを収めるラックなどの
フレームグラウンドのことです。
SGは無線機などの回路上におけるシグナルグラウンド
となります。

アンテナのコモン電流と関係ないだろう!って言わないで
しばしのご静聴を。w

FGとSGの端子は単純にショート(SGをFGに落とす)ことが
一般的ですが、これはSGの基準電圧の決定をFGに委ねた
ということです。
またFGは最終的にアース(接地)に接続されることが
一般的なので、この場合FGは基準電位をアースから
もらっているということになります。
結局FGもSGもアース電位を基準としていることになるから
何の意味があるの?と思いますよね。

ところが電気・電子の世界はそぉ単純じゃあございませぬ。w

アースの電位は?

まずはアース。(保安用の話は省く)
どんなに低いアース抵抗を確保しても、機器までの配線長が
存在する限り、そこには高周波信号やノイズなどが流れ込む
ことがあります。
また、フレームの一箇所に接地をとった場合、外部から
だけではなく、フレームで接触抵抗を持っている部分に
電流が流れることでノイズを発生させることがあります。
通常は各部をボンディングすることで対応していますが、
すべてが同電位とはならないのが現実です。
このようにアースからフレーム、フレームから電子回路の
グランドへ、逆にノイズなどが回り込むようなケースでは
各部を切り離して対策する必要が出てきます。

これが単独機器ではなく、複数の機器を設置し各々で
信号のやり取りをするための接続があるときなどはもっと
事情が複雑になります。

例として実際にあった話ですが、最上階である8階に
無線設備を設置して、内線電話からも無線を使えるように、
2階にある電話交換機と信号線および制御線を接続したときです。
お互いにFGにはアース線が接続されています。
ところが片側がすでにつなぎこまれている信号線(シールド側が
SG→FG→アースの接続されている)のシールド側を反対側に
つなぎこもうとしたときに、バチバチと火花が散りました。

これは接地の基準電位が両者で異なるため、配線をつなぎこむと
同電位にしようとするため、電流が流れと事を意味します。
それも半端な電流ではなく、ホット側に逆流したため、
シリーズに入っていた1/2Wの抵抗をまっ黒焦げにしていました。

通常は別途コモンとなるアース線を引っ張って両者につなぎ込み、
そこに電流を流して両者の電位差を吸収しなくてはなりません。
先発の業者が忘れていたのですね。
この電流こそがアンテナのコモンモードと同意なんです。

アンテナのコモンモード電流

無線機は理想的に接地している場合は接地抵抗が安定し
基準電位も安定します。
使用周波数に対し電気長が不適切な接地をつなぎ込み
なんの対策もしていない場合や、接地していなくて
無線機が迷容量だけで大地と結合している場合などは
不安定な基準電位となります。
無線機だけを考えると理想的な接地が良いのに決まってます。

平衡ANTに同軸ケーブルを直接つなぐと

では平衡型のダイポールアンテナを考えます。
アンテナも大地と結合していてます。
大地との関わりが具合が異なるアンテナと無線機の間には
基準電位になにがしかの電位差があります。
(無線機の接地状況とは無関係)
不用意に同軸ケーブルを直接アンテナにつなぎ込んだら・・・
当然大地を還流路の一部とした電流が、無線機のフレーム
(≒接地)に接続された同軸ケーブルのシールド線に
流れてしまいます。
しかも大地との間ですからシールド線の外側に流れるので、
同軸ケーブルのシールド効果には何の期待もできません。

先の機器間接続では、直流的な基準電位の決定のために
接続し流れるのが直流や低周波ならなるべく太い線を
接触抵抗なくつなぎ込めば問題が起きない程度に
改善されますが、アンテナの場合のコモンモードは
高周波が流れ、通常同軸ケーブルは波長から見て無視
できないような電気長なのでアンテナになってしまいます。

バランの効果

リニアバランを介して給電することでコモンモード電流が
阻止されることは以前にも書いたので詳細は割愛しますが
基本的には大地との結合により決定する基準電圧とし、
入力信号を2分割して一方を2/E、他方を-2/Eとすることで
バランスを強制的にとってしまえ!ってことです。
2線に流れる電流は逆相かつ絶対値が等しいため、バランスし
大地には流れないのです。

バランスが崩れると(復習)

逆にバランスが崩れると、崩れた分が大地側に流出し
同軸ケーブルシールド線の外側を使って還流します。

ことはそう単純ではありませんがすごく単純化してみます。

リニアバランを入れるか入れないかでVSWRが変化する
ケースがあります。
50Ωの平衡ANTでは等価的に電流が最大となる中点が
大地と結合していて、純抵抗分だけをみると中点を
境に25Ωがシリーズになってバランスいます。

例えば一方の純抵抗分に電流が流れても、その中点から
電流が流出してしまうと、他方に流れる電流が
流出した分だけ減少してしまいます。
アンテナが同じでも、もしすべてが流出すると負荷になる
純抵抗分は片側の25Ωだけということになるので、VSWRも
輻射効率も当然悪化してします。
もちろん大地との結合にはリアクタンス成分が含まれるので
すべてが流出するわけではありません。

バランの重要性

ではリニアバランを介さないで同軸ケーブルを直付けし
アンテナ長でVSWRのみを調整しようと切り貼りしたら・・
VSWRが下がる点は探せるかもしれませんが、流出を阻止
しない限り効率の良いアンテナにはなり得ません。

リニアバランが使えない

リニアバランが用意できないとか、水平DP系でもどう見ても
設置状況などでアンテナが大地と平衡していると思えない
場合などは、コモンモードフィルタ(CMF)をバランの
代用として挿入します。
自作する場合はトロイダルコアにケーブルを巻き付けるだけ
ってのが一番簡単でしょう。
注意するのはFT-240のような大型コアでも、トップバンドでは
巻き数が足りなかったり耐電力が足りなかったりします。
そんな時はコアを2個・3個と重ねて巻きます。
一回通して1Tですから3個重ねると3Tになります。
耐電力はFT-240のトップバンドで1KWぎりぎりくらいだったかな?
ハイバンドになるほど耐電力は増加し、1個でも10mでは10KW
くらいまで大丈夫だったはずです。
(実際に作る時には確認してくださいね。)

CMFは基本的にバイファイラ巻きなので、逆相のノーマルモードは
ロスなく通過させ、同相のコモンモードに対しては入出力の
アイソレーションを持つという仕組みです。

無線機側のCMF

またCMFはアンテナ側にどのような対策をしていても
無線機側にも挿入しておくと確実に効果が上がります。

後半はいつも言っていることの繰り返しになってしまいました。^^;;

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