3次インターセプトポイント

ある程度周波数の離れた同レベルのf1とf2をアンプに入力します。
その出力を基本波とすると、両サイドに生成される成分である
相互変調積のうち問題となる第3次と合わせてグラフ化しています。

まずはその入出力特性のグラフを見てみます。

3rdIP

一番左側の青色が基本波の出力です。
ある程度以上の入力で出力は飽和しています。
飽和の境界部分付近はもうちょっと曲線でなだらかですが
面倒なのでガキっと飽和させちゃいました。
後半で説明するP1dBが表現されていませんので
悪しからず。。。です。

真ん中の黄色は基本波となる2信号で発生したIMD-1で
ある程度以上の入力で出力が飽和しています。

右側の紫色もIMD-2でこれもある程度以上の入力で
出力が飽和しています。

IMD-1とIMD-2はIMD特性の異なるアンプのグラフを重ねたもので、
IMDが右側であるほど入力が大きくなければ現れない(歪みにくい)、
つまり同じ2信号による特性ならば、IMD-1よりIMD-2のアンプのほうが
IMD特性が良好ということであります。

3次のインターセプトポイント

3rd oder IP または 3rdIP と略します。
3rdIPとは、基本波やIMDの出力が飽和しないと仮定して、リニアリティを
保っている直線部分を各々延長したときの基本信号とIMDの交点であり、
単位はdBmで表します。
あくまで仮定の中のあり得ない条件で得られる数値ではありますが、
これが高ければ高いほど実際のリニアリティも高いということの目安です。
交点における出力レベルはIMD-2のほうが高いので前述の証明になります。

交わらなきゃどぉするって?大丈夫です。
基本波の入力信号の傾きを1とするとIMDは基本波信号の3乗に
比例して増加するので、スケールが対数であれば傾きは3となり
必ず交わりますのでご心配なく。(笑

3rdIPの実際

2SK125PPの3rdIPは低く見積もっても+15dBm以上、平均的に+17とか
18dBm以上となり極めて優秀です。
またこのFETを4個使ってクワッドルプルMixerとすることで
アクティブ素子としては非常に高い3rdIPが得られます。
LocalOSCからの入力が10dBm程で+14〜15dBというショットキー
バリアDiのDBMに近づくような値になり、パッシブな素子と
比較するとLocalOSC出力が小さくてすみ、更に変換ロスも
10dB近く少ないため、後段の回路がグッと楽になります。
最近のは測定していませんが、昔よく使われていたM4やM9という
R&K社製の測定はしたことがあります。
特にM9は+23dBmと高いIP3特性を持つDBMとして知られていましたが、
10dBm程度のLocalOSC出力では全く威力を発揮できず、20dBm以上の
LocalOSCからの供給がなければ+23dBmというIP3は得られません。
さらにLocalOSCを送受用にデバイド(-3〜-4dB程度)したり、
安定動作のため3dBATTなどを挿入した場合、回路損失も含めると
27〜28dBmの出力が必要となります。
これは0.5W以上の出力(10dBmは10mWです。)ですから
もうQRPP送信機のファイナルレベルです。
シールドや電源のデカップリング、質の良い発振出力のために
A級動作、その時かなり発生する熱処理。。。。等々、結構苦労します。
しかもミキサー損失が7dB以上ありましたので、決して使い勝手の
良いものではありませんでした。
安い時にまとめ買いしておいたTDKのCB303M4も、3rdOderIPが
22.5dBmとイイ感じですが、LocalOSCが23dBm必要なのと
コンバージョンロスの9dBが引っかかってずっと部品箱で
眠っています。。。

よくソース接地で使われる2SK241のRFアンプを標準的なゲインで
稼働させた時の3rdIPは±0dBm程度ですのでそれと比較すると
2SK12PPが極めて優秀なのがよくわかりすね。
因みに2SK125x2のパラレル接続でもパラプッシュより1dB程度
低いだけなので十分な値ですし、ゲインもほとんど変わりません。
拙生的には受信機のRFやPOSTAMPで使うならパラレルでも許せますが、
送信部のヤンガーステージに使うときは、電波の質を
求められているはずなのでパラプッシュを選択します。
3rdIPやゲインはあまり変わりがなくても、プシュプルが故に
偶数次の高調波が出ないという大きなメリットがあるからです。
なお2SK125のパラレルは入力Zがちょうど50Ω付近に落ち着き、
DBMのポストアンプなどで使うには何もしなくともマッチング
してくれます。
また以前2SK125GRシングルでソース接地で測定したという
物好きな御仁から聴いたところによるとIP3は+6dBmだった
ということです。。

ちょっとだけ数式

おっと、数式が全く出ていませんのでちょっとだけ。。。
3次のインタセプトポイント(IP3)は

IP3 = Po + (Po – P3)/2
    Po 基本波信号出力(dBm)
    P3 3次相互変調積出力(dBm)

  これをちょっと変形してみましょ。

 2*IP3 = 2*Po + Po + P3 

P3 = 3*Po – 2*IP3

この式を見ると3次相互変調積出力(P3)は基本波の3倍、
Poは(dBm)なので真数で言うと3乗倍に比例して増加するのが
読み取れます。

さて、受信機のように多段に渡り増幅した場合のIPは、
NFと同様各増幅器のゲイン(パッシブ素子のロスなども
マイナスゲインとして含める)と各々のIP特性で決定する
合計となりますが、NFと決定的に違うのは前段までの
トータルゲイン分IP特性が悪化するという真逆の状態に
なります。
もちろん多段に増幅する送信機でも一緒です。
これは後段ほど条件が厳しくなることを意味し、後段ほど
高いIP特性が要求されることになります。
これもNFと真逆ですね。

ここで使わなかったがよく出てくる単語

P1dB 前述のとおりグラフではわかりませんが、アンプは
    飽和前に少しずつ利得が下がってきます。
    P1dBはアンプの出力性能を表す値で1dB利得圧縮点
    と言い、利得が1dB下がった時の出力のことです。
    高いほどリニアリティが良好なのですが、3rdIPと
    異なるのは仮定上の計算値ではなくリアルな測定値です。
    このレベルまでが一般的にリニア動作とされています。
    通常は3rdIPより10dB程度低い値となりますが、あくまで
    目安としてであり、3rdIPが30dBmなので、出力が20dBmまで
    出しても大丈夫だろうなどと決め打ちしてはいけません。
    素子や動作環境による差ががあり、3rdIPが30dBmだが
    P1dBは18dBmなんてこともあるので要注意です。

dBc キャリア対スプリアス比の単位の一つ。
   ここでは使いませんでしたがよく出てきます。  
   (cはcarrier=搬送波の意)

IPIP inputIP(どれだけ入れたら歪むか)
OPIP outputIP(どれだけ出したら歪むか)
   まとめて説明すると、3rdIPであるグラフ上の交点を
   X軸で読むと、X軸は入力レベルなのでIPIPで表します。
   Y軸の出力レベルで読んだものはOPIPです。
   通常アンプの3rdIPは出力レベル、つまりOPIPを指すので
   過大入力レベルのほうが問題になる受信用アンプなどでは
   IPIPを使います。
   (当たり前ですが最終的に両者は等価です。)

注意 @送信系

・ここでは受信機のアンプ等がメインになりましたが、送信用の
 パワーアンプにおいては動作クラスや回路構成などにより
 IMDが基礎波の3倍(真数では3乗)に比例していない場合があります。   
・またリニアアンプのIMD特性でよく言われる-30dBとかは-30dBcの
 ことです。(dBcを使ってみました。ー笑ー)
・リニアアンプのIMDを測定する前にアンプをドライブする送信機の
 IMDを見ておかないと、何を測っているんだか分からなくなります。
・SSBモードで2トーンオーディオを入力しての測定では、
 オーディオ信号自体の歪に十分気を使ってください。
・この辺の話で出てくるリニアリティはシングルトーンではなく
 2トーンによるものです。   

簡易測定(?)

3rdIP値を得るために2信号によるIMDを精密に測定しようとすると
高度(=高価)な測定器が必要ですが、IMDを発生させてみようと
するだけなら、シグナル・アナライザやスペアナがなくても
MAXで受信機のSメータを振り切らす程度の可変できる出力を持った
2つの発振器と、抵抗2本で作った簡易的なコンバイナがあればOKです。

発振器組み合わせはSGがあれば最高ですが、ディップメータや
アンテナアナライザなどが流用できます。
そんなの1つしか持ってないって方は、その一つをf1とし、もうひとつは
別の送信機をダミーに接続してf2を送信することで代用します。
ダミーにモニタ出力があればその端子かをコンバイナに接続します。
モニタ出力端子がない場合はダミーの漏れを適当なカップリングになるよう、
受信機との位置関係で調整します。(ちょっと不安定になります)

IMDを確認するだけならf1とf2を同レベルに調整する必要もありません。
f1・f2の周波数差分だけダイヤルをずらして上下を探ればIM3やIM5が
確認できるでしょう。
確認できない場合は発振器のレベルを上げてみます。

f1・f2のレベルを揃えて徐々に上げてゆき、その都度基本波とIM3の
Sメータ値を記録しておくと、簡易的に3rdIPの計算もできます。
f1・f2の周波数や各々のレベルを変えて発生するIM3の変化を
見ることもできます。
一方の信号が弱くても他方が強ければ・・・という確認ができるでしょう。

もっと発振器(代用含む)が用意できるかたは、その数分の信号を
入力してみてください。
コンテストなどにおいてオバケがでて、受信機が悲鳴を上げているのが
よ〜く分かると思います。

最後に

書ききれていないことがたくさんありますが、
全部書くと学術本が出来上がりそう。。。
次はもっと詳細に・・・と言いたいところですが
小難しい理論と数式が連射されるので、この手の
解説専門サイトにお任せすることにし、拙生的には
頑張ってよくこんなに書いた・・・ということで
おしまいにします。

 

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